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「オリジナル小説」
ななしのアルーシャ

ななしのアルーシャ 08. 昼食

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ななしのアルーシャ_表紙
 
 謁見の間を退出したあたしとヴィリー先輩は、今日あたしが目覚めた部屋に戻ってきた。
 そろそろ服を着替えたい。確かにこんなドレスに憧れていたけれど、着てみるとやっぱり窮屈。時間と共にいつもの服装が恋しくなる。
 落ち着かないあたしにいつも通りの先輩。さすが馴れているなぁ。親衛隊の正装はシンプルだけど堅苦しそうなのに、先輩はすごく自然に着こなしている。
 うう、そういえばリズベスもそんなところがある。本物の高位真命石の持ち主って魂からにじみ出る気品が服装に負けないんだろうなー。あ、なんか言っててへこんだ。
 先輩はあたしの苦悩もつゆ知らず、さっそく仕事のお話をしてきた。
「密命だけに正式な誓約の儀はしない。俺がお前の担当になるから何かあればどんな手段でもいい、俺に連絡しろ」
「はい。分かりました」
 誓約の儀ね。あたしの場合、したくても出来ないよ。真命石が無いもの。もっとも真命石同士で縁を結ばない以上、あたしを完全に拘束はできないのだから行動の自由が保障されるって点で都合がいいけれど。長距離心話ができないのはちょっと面倒かな。
 なるほど、そう考えてみれば失石者の管理が大変ってホントらしい。石の誓約無しでは管理するのに術の利用が制限される。あたしを使って王の後継者を探させるのも、あながち思いつきだけじゃないみたいね。
「今日のところはもう一晩ここに泊るといい。まだアカデミーは落ち着いていないし、学生の中には配慮の足りない者もいるだろう。寮にもどるとまた騒ぎになる」
「……そうですね。そうします」
 アカデミーかぁ。もう考えても仕方が無いけれど、でもやっぱり簡単に割り切れない。
 なによりまず真命石を探さないといけない。石こそ第一優先事項。それは絶対。
 分かってる。分かってはいるけれど。
 ……戻れるものなら戻りたいよ。
 ちょっぴり暗くなったあたしに、先輩は静かで優しい声をかけてくれた。
「心配するな。偽石使いの疑いは晴れているし、アカデミーは休学扱いしておいた。アルーシャの優秀さは証明されているのだから、真命石の問題が解決すれば復学出来る」
「ホントですか!」
 力強く頷いてくれた先輩を前に、あたしは文字通り跳び上がった。
 復学できる。アカデミーに戻れる!
 多分その頃にはリズベスもコゼットも卒業してしまっているだろうし、どんな真命石になっているか分からないからエリートクラスに戻れる保証もない。完全に元通りって訳じゃないけれど、それでもまたアカデミーに通えるのならこんなに嬉しい事はないよ。
 うん。俄然やる気がわいてきた! 必ず真命石を見つけて復学するんだ!
 あ、もちろん王位継承候補者も探します。忘れていませんよ、シルジア陛下。
 あたしやっぱり顔に出るのかな。先輩は満足そうに頷いてくれた。でも、うん。この気持ちは隠せないし、隠す必要も無いよ。
「詳しい話は明日にしよう。エメラルドもその時に返還する。今日はもうゆっくりするといい。何かあったら侍女を呼べ」
 矢継ぎ早に指示する先輩。そうだよね、先輩は親衛隊士だ。忙しいに決まってる。いつまでもここにいるわけにもいかないよね。
 でも、これからどうしよう。さすがに王宮内をふらつくわけにはいかないし、お腹も減ってきたけどどこに行けばいいのかな。侍女さんを呼びつけるっていうのも気が引けるし、一人はちょっと不安だし。
 今日の予定をどうすればいいのか悩んでいるあたしに、先輩は思い出したように告げた。
「ああ、もう少ししたら食事を運ばせる。遅めの昼食だがちょっとした差し入れだ。たぶんアルーシャには気に入ってもらえるだろう。楽しむといい」
「は、はい、お気遣いありがとうございます」
 なんだろ。特別メニューなのかな。王宮ででる食事なんて滅多に口に出来ないし確かに楽しみだけど、どうも言葉のニュアンスが少し違う気がする。
「すまないが、今日はこれで失礼する。明日の10時頃にまた迎えにくる」
「はい。どうもありがとうございました」
 退室する先輩を見送って扉を閉める。外から鍵はかけられていないから、出入りも一応自由ってことだろう。まずは食事を待とうかな。
 ホント、昨日から一時も落ち着く暇がなかったから、なんだか気が抜けて急にお腹がすいてきたよ。思えば水くらいしか口にしていない。うう、お腹がなっちゃいそう。
 あ、しまった。ドレスどうしたらいいんだろ。このまま食事なんて無理。だってコルセットがきつ過ぎるもの。パンを一口分入れるだけで苦しくなりそう。
 脱ぎたくても替えの服がない。着替えの時に侍女さんたちに持っていかれてそのままだ。あちゃー、大失敗。
 せめてコルセットだけでも緩ませる事が出来るかな、と思案しているうちにドアがノックされた。うあ、食事が来ちゃったみたい。困った。
「えっと、どうぞ」
 とにかく待たせる訳にも行かないから、入室を勧めた。待ってましたとばかり途端に開くドア。
「おまたせー! アル、お腹減ったでしょ!」
 ……あぁ、そういう事かぁ。ホント、ヴィリー先輩にはかなわないなぁ。
「こら、声が大き過ぎよ。アルーシャ、大丈夫?」
 うん、先輩。すごく気に入りました。この差し入れ。
「コゼット! リズベス!」
 サービスワゴンを押しながら入ってきたのは、あたしの親友二人だった。
 
 食事を終えたあたしたち三人は、小さなテーブルを囲んでリズベスが入れてくれた紅茶を飲んでいる。
 昼食のメニュー自体はごく普通のものだった。チーズを挟んで焼き上げた香ばしいパンにミルクベースのスープ。ゆでた若芽のサラダとスライスされた鹿肉の薫製。ヨーグルトをかけた春木の実のデザート。王宮でもこれが主流なのか、ヴィリー先輩が気遣ってくれたのかな。
 リズベスがちゃんと着替えを持ってきてくれた事に感謝しなくちゃ。でなければ、とてもモノが食べられる状態じゃなかった。コルセットの矯正力ってホント侮れない。
 コゼットはすぐにでもお互いに起こった出来事を話したくて仕方がなかったみたいだけど、リズベスがやんわり止めてくれたので、遅い昼食は静かで落ち着いたものだった。
 だからもうコゼットは限界だったんだと思う。
「で、アル、何がどうなってるの! なんで王宮にいるの」
「うん、まぁ、なんて言うか、いろいろあってね」
 紅茶を一口飲んだら、途端に質問が始まった。気持ちは分かるよ、あたしだってびっくりしたもの。驚きが続いてなんだか頭が麻痺してる感じ。
 でも、密命っていうからには王位継承者を探す件はしゃべらない方がいいんだろうなぁ。詳細も一部の人しか知らないみたいだし。
 二人に嘘はつきたくないけれど、正直に話したらまた巻き込む事になる。それはもう嫌だ。
 ……コゼット、リズベス、ごめんね。 
「あたしって石が割れたのに術が使えたでしょ。だから今までにない事例だってなんだか王宮の真命石鑑定官とかが興味を持ってるみたい。あ、それでね、あたしの偽石使い疑惑は完全に晴れたんだって!」
「そっかそっか。よかった。よかったよ、アル」
「当然よ。アルーシャが偽石使いであるはずがないもの。で、詳しく教えて。どういう経緯なの」
 あたしは王位継承者の話とあたしの真命石はエメラルドじゃないことは隠して、あとは打ち明ける事にした。特例失石者である事は公式だし、これから真命石を探す為には隠しておけないと思う。
「そう。変石による失石者だけど、完全に石を失った訳ではない。だから特例ね。でもそうなると……」
「うーん、なんだかよく分からないなぁ。結局どうなるのさ」
 なにやら考え込んでいるリズベスと、よく分からないって顔のコゼット。隠し事があってちょっと気が引けるあたしは、無理矢理元気を出して説明を続けた。
「ひとまずは失石者扱いなんだけど、特に監視下に置かれるってことはないみたい。エメラルドも半分だけど返してもらえるって」
 とにかくそれほど悪い状態じゃないと強調する。
 うう、コゼットはともかくリズベズが怖いよ。ああやって考えだすと、恐ろしい的中率で真実を見抜くんだもの。
 サファイアは知性を司るとされるし、真命石の美しさは智慧の輝きと説かれる。では、他に類を見ないほど美しいブルーサファイアを真命石とするリズベスはどう評価されるべきでしょうか。
 説明の必要なし。推して知るべし。
「あ、そういえば、リズベスたちはあの後どうなったの?」
 あたしは先手を打つことにした。このままリズベスに推理を続けさせると、あたしの隠し事なんて高純度の水晶を覗きみるように赤裸々にされてしまう。話を変えるのが最善よね。
 思った通り、まず乗ってくれたのはコゼットだった。
「うん、すごかったよー! 警備隊の人達と鬼ごっこしたんだけど、やっぱ太刀打ちできなかった」
「すごかったよー、じゃないわよ! あれだけ無理しないでね、って言ったのにいきなり校内で術戦するなんて。しかも警備隊相手に!」
 リズベスが珍しく声を荒上げた。よしよし、さすがの才女も無視できないようね。って、コゼットなにやってんの!
「術戦って、ホントにやったの? コゼット」
「本当も何も三階から屋上にかけて乱戦まがいの逃走劇になったわよ。さすがに警備隊だけあって校舎を壊すようなことはしなかったけど」
「なに言ってるのさ。リズだって手伝ってくれたじゃない」
「あれは手伝うって言わないわ。巻き込まれた、が正解!」
 どうやらコゼットさんは相当満足されたみたい。解散する前に言ってたのはやっぱり本気だったんだね。
 ルビーは強い守護の力を持つから、真命石とする者は戦闘術に長ける場合が多い。コゼットもご多分に漏れず、戦闘訓練においてはクラスでも三本の指に入るほど。つまりアカデミーの同級生内でトップスリーってことだ。
 その分、ちょっと行動力がありすぎるよ。リズベスがこめかみを押さえている。うん、あたしもなんだか胃が痛い。
「で、大丈夫だったの?」
「大丈夫大丈夫! まぁ、ちょっとお説教されたけどね。最後はかえって褒められたよ! 学生なのに大した術戦能力だって」
「あれって褒められた内に入るのかしら。最終的に二人もろともあっさり捕まったもの。それでも随分時間は稼いだつもりだけど、アルーシャはすでに捕まってたのよね」
 リズベスが小首を傾げてあたしを見る。あー、やぶ蛇だった。
「……ごめんなさい。ホントに不甲斐ないです」
 頭を下げる。だって、本当に逃げ出してすぐ捕まってしまった。ヴィリー先輩と、もう一人。アムルって人に。そうだ、そうだった。あの人はいったい誰なんだろう。
 あたしが顔を上げると、なぜかリズベスの方がうなだれていた。
「ちがうのよ、アルーシャ。謝るのは私の方なの。ごめんなさい」
「え、なんで? 捕まったのはあたしが油断したから」
「いいえ。私のせい。ヴィリバルトに心話連絡したのは私だもの。アルーシャが大変なことになってる、手を貸してって」
 突然の告白で絶句したあたしに、リズベスが深々頭を下げた。
 あたしの石が割れてクラスが騒然となった時、リズベスは真っ先にヴィリー先輩に心話を送ったんだそうだ。そして彼が収拾をつけるまでの間、あたしを逃がしてどこかにかくまおうと考えた。あたしが偽石であるわけがないから、ヴィリー先輩ならうまくフォローしてくれる、と。
 まさかまずあたしに接触して、捕まえるとは思わなかったらしい。
 なるほどなぁ。だからあんなに早くヴィリー先輩がアカデミーに来たんだ。いかに近くにいたとしても早過ぎると思った。
 ヴィリー先輩としてはもともとあたしが変石する可能性があると認識していた。だからリズベスから連絡が届いた時点で、第一にあたしを確保しようと動いたってことね。偽石使いとしてではなく失石者として。
 ならリズベスが謝る事なんてない。
「うん、リズベス、問題ないよ。結局あたしの偽石疑惑を晴らしてくれたのはヴィリー先輩だし、そう考えると一番いい形に治まったんだと思う」
「でも、それは結果論よ。事態がもっと悪い方へ動いたかもしれない」
「いいよ。結果論でも何でも。むしろあたしの変石騒動に二人を巻き込んじゃったんだから、あたしが謝るべき。本当にごめんなさい」
 謝り合うあたしたちに、コゼットが言った。困ったように縮こまりながら。
「えっと、二人共に思い悩んでいたのに、思いっきり楽しんでたボクが一番悪いと思う。ごめんなさい」
 あたしとリズベスは思わず顔を見合わせた。
 分かってないのかな、コゼットは。
 あの時、皆を敵に回してもあたしをかばって叫んでくれた。
 あたしを守る為に、リズベスとコゼットだけが動いてくれた。
「コゼット。いつも思うのだけど、貴女は時々不思議なことを言うのね」
 リズベスが、淡く微笑みながらからかうように言った。あたしも相槌うって続ける。
「あの場で楽しまないコゼットなんて考えられないよねぇ」
「ええー! そうかな、そんなことないよー!」
 コゼットがしきりに瞬きしながら、否定してる。
 うん。大丈夫。知ってるよ。
 あんな風にあたしたちが一番苦しい時こそ、元気いっぱいに頑張ってくれるってところ。
 あたしたちが困ってる時こそ、活き活きと動いて元気づけてくれること。
 疑う気がこれっぽっちも起きない程、知っているから。
 あたしとリズベスは、ついつい笑ってしまうのだった。
 
【続く】



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