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「オリジナル小説」
ななしのアルーシャ

ななしのアルーシャ 04. 目覚め

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ななしのアルーシャ_表紙


 遠くで鳥の声が聞こえる。薄く光が感じられたのだけど、まぶたがなかなか上がらない。
 なんだか頭が重い。以前お酒を飲んでみた翌朝のよう。コゼットと一緒に頭抱えていたら、リズベスがものすごくいい笑顔で延々と説教してきたっけ。本当に真面目なんだから。
 あれ、いつもの布団と違う気がする。こんなに柔らかくってふかふか。いい香りもする。あたし、お香なんて焚いたっけ?
 昨日は、アカデミーから帰って、それで……。
 って!
 無理矢理目をあけて首を起こした。
 見た事無い部屋。
 ほんの少し芽生えるはずだった期待は種のまますり潰されちゃった。やっぱり昨日の事は夢じゃなかった。
 シンプルで落ち着く濃いブラウンの壁紙には陰影で唐草模様が描かれている。窓は1つだけあって、上品なレースカーテン越しに日の光が差し込んでいた。陰の感じからもう昼は過ぎているみたい。
 布団は、なにこれ。軽くって柔らかくって膨らんで、カバーには豪華な刺繍。
 表面の彫刻が美しいベッドサイドテーブルには微かな煙をたゆらせている香炉。すごく繊細な透かし彫りからいい香りが漂ってる。
 インテリアに詳しくないあたしでも、なんとなく価値を感じられる物ばかり。
 どう見ても貴石族様の部屋だ。あたしもアカデミーを無事卒業していたらこんな部屋で過ごす事も夢じゃなかったと思うのだけど、今となってはこの場に居る事にすごい違和感がある。
 そもそもどうしてこんなトコにいるの?
 鈍い頭を無理矢理動かして昨日の事を思い出す。あたしの真命石が割れて、リズベス、コゼットと一緒に逃げ出して。ヴィリー先輩に会って、そして。
 そうだ。逃げ切れずあっさり捕まってしまったんだ。そこから記憶がまったくない。
 あ、エメラルドは? あたしの石は!
 慌てて上半身を起こす。上着のポケットを探そうとして、自分の姿に気がついた。厚手の就寝用ローブに包まれてる。
 周りを見渡すとベッドサイドのテーブルの上にあたしの服が綺麗にたたまれていた。だけどアカデミーのローブはない。
 王立アカデミーの象徴たる紫紺のローブ。
 今着ている寝間着の方がきっと何倍も高価な布地で、着心地も暖かさも比べ物にならないと思う。
 でもたとえどんなに薄汚れていたとしても、あのローブを初めて羽織った時の感激を思い返せば何も気にならなかった。
 あたしはなんだかすごく肌寒く感じて身を縮ませながらベッドから降りた。厚い絨毯にそろえて置かれていた寝室用スリッパを履く。
 上着を探ってもエメラルドはない。当然だよね。偽石の疑いがかかっていて、しかも割れた真命石を『使って』逃げ出したんだから。ホント、あたしだって自分が不気味だもの。
 重い足を引きずりながらドアを確認する。やっぱり外から鍵がかかってる。
 部屋を見渡して誰もいない事をもう一度確認してから、服を着替えた。
 白のシャツに深い青のチェック柄のパンツ。紺のジャケット。紫紺のローブに隠してたいつもの恰好。
 親がいなかったあたしは村の人達の援助で入学したから、なるべくお金は使わないようにしていた。エリートクラスに入れた時から国の奨学金が出てだいぶ楽になったけどね。
 クラスメイトたちはほとんどが貴石族の子女ばかり。みんな裕福で着飾っていたから、あたしはちょっと肩身が狭かった。
 あまりに地味な恰好が多かったからリズベスが誕生日に可愛いリボンをくれたっけ。
「別に着飾れなんて言わないわ。真命石の輝きこそ本当の美よ。アルーシャのエメラルドはこのクラスの誰よりも綺麗だもの。だけど、もうちょっとおしゃれしたっていいとも思うの」
 あたしの中途半端に伸びた髪にリボンをつけながら、すまして言ったリズベス。
「うわー! アル、すっごく似合ってる! 可愛いよ!」
 自分の事のように喜んで、満足そうに頷いたコゼット。
 あたしの大事な親友。大事な思い出。そうよ。本当に思い出になっちゃったんだ。
 もう、あの生活には戻れないんだ。
 涙は出なかった。でも、何かが溢れ出してる気がする。
 2人に謝りたい。せめて2人に累が及ばないように弁明しないと。
 村のみんなにも謝りたい。それこそ赤ん坊の頃からあたしを知っているみんなは、あたしが偽石使いだなんて思わないし、弁護もしてくれると思う。親石族のユリウス村長だって、きっとかばってくれる。
 でもきっとアカデミーには戻れない。偽石使いではないにしても、割れてしまった以上は真命石でもない事も事実だから。みんなの期待を裏切ってしまった。
 なんで。なんで、こんなことになったんだろう。
 足に力が入らなくて、ベッドの端に腰掛けた。

 そう。売り言葉に買い言葉だった。
 冬休みが明けて早速行われた試験で上位に入ってから、今までに増してクラスメイトの一部の八つ当たりが激しくなったんだ。
 あの時、あたしはその代表格であるオリバーとリックにねちねちと絡まれていた。
 二人の言いっぷりはホント誰が聞いても言いがかりにしか思えなかったから、あたしは不愉快ではあったけど相手にするだけ時間の無駄だと考えてた。
 実際、他のクラスメイトたちは意に介さずって感じだし、オリバー達はエリートクラスにしては成績がふるわなかったから、あたしをからかえばからかう程周りの視線は冷ややかになっていった。
 ある事件を持ち出すまでは。
「だいたいお前、おかしいんだよ。親は半貴石族だって話なのにエメラルドなんてありえねー」
「三年前の奴と同じなんじゃねーの?」
 その事件はアカデミーでは有名な話で、だからこそ意味はすぐ分かった。
 偽石使いが入学していた事件。本当の真命石を隠し、高位の石を本物のように見せかけて利を得ようとする詐欺師が、何食わぬ顔で学生として入り込んでいた。
 魂の象徴にして運命の導きたる真命石を偽る事は、自分の全てを汚す事であり、同時に周りの人々を侮辱する行為。何より人の創造主たる『大いなる父』をあざける行い。だから偽石使いは大罪とされている。
 言外に含まれた蔑みに、あたしよりもリズベスの方がきれた。
 いつもはクラスで一番穏やかな親友が見えない炎を瞳に宿して加害者を睨みつける。青い炎の方が高熱だって聞くけど、リズベスの怒りってまさにそれ。
「……今の言葉、取り消しなさい」
 相手の頬が引きつる。あたしも戦々恐々だった。ホント、絶対怒らせちゃいけない人っているよね。
「リズベス、いいよ。あたし気にしてないから」
「アルーシャはもう少し気にして。この世には言っていい事と悪い事があるのよ」
 あたしが止めても治まらなかった。親友はますます顔をしかめてる。ある意味、貴重な光景だよ。こんなに不機嫌を露骨にさらす姿、今までみた事ない。
 真面目で信心深いリズベスにとって、絶対に聞き流せない言葉だったんだと思う。
「そんなに言うなら、証明してみせろよ」
「証明の必要を感じないわ。アルーシャは貴方よりずっと優秀よ。偽石使いがそんな事できるって言うなら、貴方、自分で自分をおとしめてるって分からない?」
 ぐうの音も出ないって、こういう場面を指すんだね。オリバーの顔色がすごい勢いで変わっていく。リズベスの完全勝利は目前。
 でも、コレはまずいって思った。
 そりゃ人間合う合わないってあるし、無理して仲良くする事ないけど、わざわざ敵を作る必要もない。第一、当事者のあたしが喧嘩するならともかく、なんでリズベスが矢面に立たなきゃいけないのよ。
 だから、言った。言ってしまった。
「わかったわよ。証明すればいいんでしょ。やってあげるから、この話はそれでお終いにしてくれる?」
「アルーシャ、何を言ってるの!」
「大丈夫大丈夫、心配しないで。で、オリバー。どうすれば納得する訳?」
 今、振り返れば馬鹿な事をした。だけどその時は何の迷いも無かった。
 だって、あたしの真命石が実はただの宝石だなんて、これっぽっちも思っていなかったから。

 あの時、黙っていればよかった。相手にしなければよかった。
 そうすれば、こんな惨めな事にはならなかったのに。
 ため息一つ、涙一粒出てこない。ただひたすら過去を振り返って、どうしたらよかったのかを延々と考えて、どんなに考えても過去は変わらないって当たり前の事を確認し続ける。
 不毛だと分かっていても止められなかった妄想を遮ったのは、立派な扉から聞こえたノック音だった。
 来た。ついに来た。
 あたしは反射的に立ち上がり、でもそれ以上何をしていいのか分からず、立ちすくんだ。
 石をはめたペンダントを握りしめようとして、無い事に気がつく。行き先を失った指先が震えているのが分かった。真命石がないことがこれほど不安だなんて知らなかった。
 外から小さなきしむような音が聞こえ、ノブがまわされる。ゆっくり開く断罪への道。
「失礼する。……なんだ。もう起きていたのか」
 その声を聞いて、姿を見て、あたしはその場にしゃがみ込んでしまった。
 ヴィリバルト=アレキサンドライト。
 深紅のマントを羽織った略式正装のヴィリー先輩がそこにいた。
「どうした。まだ薬が抜けていないようなら、無理せずにベッドに入れ」
 先輩はかすかに首を傾げながら、扉を後ろ手に閉めた。壁際の椅子を運び、ベッド脇に置いて腰掛ける。
 なんとか立ち上がったあたしはゆっくりと頭を下げた。黙ったまま。挨拶しないなんて非礼だと思ったけど、喉が震えて声は出そうになかった。
 そんなあたしをどんな風に思ったのか、先輩は小さくため息をついたようだった。あたしはますます頭を上げる事ができず固まる。
「……顔を見せろ、アルーシャ。気持ちは分かるが、そんなにおびえるな」
 ちょっとぶっきらぼうだけど優しい言葉は、アカデミーの頃と変わらなくて。あこがれのヴィリー先輩の声で。
 なんだか、昔に戻ったような気がして。
 留め金が外れたように、涙がこぼれた。あたしは微かに声を上げて泣き出してしまった。
 なかなか涙が止まらないあたしを見て、先輩はブレスレットにはめ込まれている美しい青緑の石に手をかざした。
 光によって色が変わる神秘的な宝石、アレキサンドライトは二面性と独自性を象徴するとされ、また変色効果を持つ石がよく言われるように導きの石とも伝えられる。
 運命を示す真命石の中でも、特に人を良い方向へと導くとされる先導の石。
 そのせいだろうか。先輩の真命石から感じられる柔らかな波が、あたしの心を鎮めていく。そういえば、学生時代から先輩は精神に作用する術が得意だったっけ。
「落ち着いたか?」
「……はい。すいません。ありがとうございます、先輩」
「やっと声が聞けたな。随分と久しぶりだ」
 少し笑いを含んだ先輩の指摘で気がつく。そう言えば昨日は姿隠しをしていたし、今だって一言も口をきいていなかった。という事は、最後に話をしたのは先輩が卒業した時。もう半年以上も前のこと。
 なんだか急に気恥ずかしくなって、あたしはまたまたうつむいてしまった。
「さて、何から話すべきかな」
 あたしが完全に泣き止んだのを確認して、先輩は本題にかかった。
 分かってる。あたしの偽石疑惑についてだ。
 でも、さっきよりずっと心は静かだった。先輩の術の効果もあるのだろうけど、あたし自身少し開き直っていた。
 ちゃんと言うべき事は言おう。真命石を偽るつもりなんてこれっぽっちも無かったって。ずっとあのエメラルドがあたしの真命石だと信じてきたんだって事を。
 そんなあたしの覚悟は。
「まずはっきり伝えておくが。アルーシャ、お前が偽石使いだという疑いはもう晴れた」
「え?」
 あっさりと空振りした。
 
 
【5に続く】
 


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