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「オリジナル小説」
ななしのアルーシャ

ななしのアルーシャ 01. 真命石

 ←初シナリオガイド、参加者満員です。ありがとうございます! →リアクション執筆、頑張ります。
ななしのアルーシャ_表紙(イラストACより)


 窓のうなりがひどい。外では強い風が吹いているのだろう。
 アルーシャは暖炉のあたたかな光の前で絵本を広げつつ、小さな頭を揺らしている。
 私は同じ真命石を持つ親石族で、実の娘も同然であるこの小さな女の子をベッドに運ぼうとした。
「……まだ眠くないもん」
 だだをこねるアルーシャについつい笑ってしまう。いつもは大きな目をこんなに細めているというのに、眠くない訳がない。
「ね、ユリウスさま。ごほん読んでください」
「いいけど、またこの本かい?」
「はい!」
 私の手に絵本を押し付けてくるアルーシャ。
 もう自分でも絵本が読めるのに、これだけはいつも読んでくれとせがんでくる。
「わかった。読んであげるから、そうしたら寝るんだよ?」
「はい。やくそく!」
 一生懸命頷く娘の頭をなでると、わたしは絨毯の上にあぐらをかいた。
 横に寄り添うアルーシャに聞きやすいように、ゆっくりと絵本を読んでいく。
 
 
 むかしむかし。私達『人』が生まれるよりもっと昔。
 この世界『グリーゼン』の大地を司る女神は、とても疲れ果てておりました。
 地は凍てつき、海も山も荒れ、世界はまさに死にかけていたのです。

 そこへ天の果てから大いなる光と共に、偉大なる者が現れました。

 偉大なるそのお方は、まず御使いである『火の民』を遣わし、世界に暖かさを呼び戻しました。
 次に『金の民』を創り、生き物たちが過ごしやすいように世界を造り変えました。
 さらに女神の子等に力を与え、大いに栄えさせました。
 土に、川に、森に、海に、空に、世界に、生命の声があふれたのです。

 女神は歓喜し、偉大なるお方へ感謝の言葉を捧げました。
 すると、偉大なるお方はおっしゃったのです。
 
 『汝、我を尊ぶなら、我が子等をこの地に住まわせるべし』
 
 女神はもちろん受け入れました。もとより、女神は全ての命を大切にされます。
 偉大なるお方は頷くと、懐より無数の輝きを取り出されました。
 それはそれは美しい『石』でした。
 そのお方が大地に『石』を振りまくと、その一つ一つの輝きから『人』が産まれ出たのです。
 
 偉大なるお方。私達『人』を産みし『大いなる父』は、私達に様々な知恵と力を授けられました。
 そして全てが終わり、天にお帰りになる際、こうおっしゃいました。
 
 『我が子等よ。汝等の魂は石と共にあり。
  石は汝等の魂を象徴し、真の運命を導くものなり。
  硬きは強き事なり。汝、治めよ。
  美しきは賢き事なり。汝、興せ。
  稀なるは尊き事なり。汝、導け。
  石と共にあらば、石は汝の力となろう。
  心せよ。その石は汝の真の命なり』
 
 ですから私達『人』は、元々この世界にいた『亜人』と違い、『石』を手にして産まれるのです。
 偉大なるそのお方。『大いなる父』よりいただいた、真の命の石。
 『真命石』をしっかりと握りしめて。


「終わり。……アルーシャ?」
 絵本を読み終わった私が膝を見ると、娘は小さな寝息を立てていた。
 ゆっくりと抱き上げ、部屋に運んでやる。
 ふとアルーシャの胸元にあるペンダントに注意を奪われた。
 彼女の真命石である緑美しい石。私と同じ石。
 エメラルド。
 今、ほんの少しだけ光り輝いたような気がする。
 いや、本人が寝ている時に力を放つ訳もない。見間違いだろう。
 私はアルーシャをベッドに寝かせ毛布をかけてやると、子供部屋を後にした。
「大いなる父よ。そして我らが魂の象徴たるエメラルドよ。この娘をお守り下さい」
 若くして亡くなられたこの子の両親に代わって祈りながら。


 


 
 うそ。割れた。割れちゃった。
 
 手の力が抜けて金槌が落ちる。机の上で美しい輝きを放っていたエメラルドの欠片が、それぞれ震えた。宝石名を冠したカットがお気に入りだっただけに、見た目だけでも無惨この上ないよ。
 赤茶けた壁紙が落ち着いた雰囲気をかもし出す教室。窓から入る夕焼けの柔らかな光が辺りを暖かく包み込む中、あたしは目の前が真っ暗になったように感じていた。
 ホント、呼吸が止まるなんてもんじゃないわ。はっきり言って心臓はもちろん、脳までもが凍りついたように思った。
「……割れたぞ」
「マジかよ」
 周りを囲んでいた20人ほどのクラスメイトたちの声には、隠しきれない驚きがにじみ出てた。遠目で見ていた生徒の一人が立ち上がった拍子に、椅子が大きな音をたてて倒れる。
 でも誰も振り向かない。床にぶつかった木の振動音はみんなのざわめきに呑み込まれた。
 そんなの当たり前よね。本来ならその程度ではすまない。悲鳴と混乱で、この場がしっちゃかめっちゃかになったっておかしくなかった。
 あり得ないことが起こっているんだもの。しかも二重の意味で。
「おい、何でアルーシャは平気なんだ?」
「俺が知る訳ないだろ」
「……やっぱり偽石(ファルストーン)か?」
 その単語が耳をかすめ、あたしの時間は一気に動き出した。シルジア王国最高学府、王立アカデミーの誉れ高い紫紺のローブを翻し、中途半端に伸びた髪を振り乱して反論する。
「ちがうわよ! これはあたしの真命石(トゥルストーン)! あたしはアルーシャ=エメラルドなんだから!」
 震える声で、石族名(ストーンネーム)を叫んだ。
「じゃあ何で割れるんだよ!」
「しかも君には何の変調も見られない。ありえないだろ? それが君の真命石なら」
 あたしは言葉に詰まってしまう。突きつけられた問いは真実を示していて、あたしにはそれを覆す言い訳なんて思いもつかない。
 思いつくわけないじゃない。だって、真命石なんだよ?
 自分で自分の真命石を割るなんてできない。もし何かの理由で石が割れたとしたら、正気を保てるわけがない。

 石は魂の象徴であり、命の結晶であり、運命の道しるべである。

 神父様の言葉が耳に木霊する。
 そう。ただの石ならいざ知らず、トンカチで叩いたぐらいで真命石が割れるわけがない。
 真実が事実を裏付けて、あたしは一言も発せなくなった。
「噂は本当だったわけだ。二人目の偽石ってな。王立アカデミーも地に落ちたもんだ」
 その言葉を聞いて、視野の片隅に立って震えている親友を意識した。
 金色の長い髪。いつもよりさらに白くなった頬。青い瞳があふれそうにたまった涙で潤んでいる。
 ああ、リズベス。あんたのせいじゃないよ。泣かないで。
「考えてみればやっぱりおかしいよな。半貴石族出身のくせにエメラルドなんてさ」
「誰か警備隊に連絡入れろ。偽石だ!」
「そいつ逃がすなよ!」
 疑いは確信へ。さっきまでかろうじてクラスメイトと呼べないこともなかったみんなは、瞬きする間に敵となった。
 紫色の壁となってあたしの周りを取り囲む。暖色に包まれていた教室が一気に寒色に支配される。つい数分前までの穏やかな夕暮れが遠のいていく。
「ふざけるな! ボクはアルを信じる! アルが偽石だなんてあるもんか!」
 人壁の向こう側でもう一人の親友が叫んだ。
 叫んでくれた。
 きっと赤毛のショートを逆立てて、ほっぺた膨らませてあたしを守ろうとしてくれている。あの生き生きとした瞳に炎のような輝きを宿して。
 ありがとう。コゼット。気持ちうれしい。でもそれ以上は言わないで。あんたまで巻き添え食っちゃうよ。 
 コゼットと同じように叫ぶことができたならよかった。たとえ悪あがきだとしても、独りよがりだとしても、幻想にしがみつくことができたのなら、あたしもっと楽になれた。
 でも。
 どこか心の片隅で思っていた。認めたくなかっただけで、ずっと昔から。
 肌身離さず持ち続けてきたこのエメラルド。しっかりと握りしめ、一緒にこの世に生まれたはずの緑の宝石。
 持ち主と深く結びつき、象徴し、人生を決定する。平均直径2センチほどの運命の石。
 そのはずなのに、ずっと感じていた。いや、正確にはなにも感じられなかった。この緑色に澄んだ美しい宝石との絆を。
 それでも、あたしの真命石だと信じていたのに。まさか本当に割れてしまうなんて!
「よくも今まで俺たちを騙してきたな! どうやって入学審査を誤魔化した?」
「特権欲しさに偽石かよ。3年前といい、これだから下賤の輩は……」
「大いなる父をも恐れぬ罪人か。汚らわしい」
 クラスメイトたちが次々と真命石を構える。指輪やペンダント、ブレスレットといったそれぞれの装身具につけられている石が淡く光をともしていく様子は、まるで降臨祭の夜を思い出させた。
 赤、オレンジ、黄色に緑。そして蒼。
 石の原色そのままに輝く光が次々連なり、チェーンとなって周りを取り囲んでいく光景を、あたしは夢幻のように眺めていた。
 大げさだなぁ。割れた石しか持たないあたしに、なにができると言うのよ。
 ルビー、サファイア、エメラルド。高位の石を持つ人達だけが入学を許される王立アカデミー。その中でも成績優秀者だけを集めて構成される特別クラス。そんなエリートがこれだけ揃えば、もしかしたらシルジア王だって手を焼くんじゃないかしら。
 あたしは反射的に割れたエメラルドを摘まんで胸の前に構えた。本当だったら専用装身具のペンダントにはめて使うのだけれど、そんな時間も無いし、そもそも割れてしまって収まらない。
 自然に術を使うべく、エメラルドに働きかける。無駄だと分かっていたけれど、物心ついた時から術を使う時のちょっとした儀式のようなもので、もうほとんど反射的だった。
 でも、あれ? ちょっと待って。どういうこと?
 あたしの驚きは、周囲のクラスメイト達にとっても同じだったみたいで、ざわめきが広がっていく。
 だって、割れてしまったエメラルドがほんのり光を宿したから。
 緑色の清浄な輝きが、あたしの心音に同調しているように明滅している。
 割れた真命石が輝きを宿すなんてありえない。割れたということは、持ち主と繋がっていない証拠なんだから。
 持ち主の魂を象徴する石は、その魂と繋がっているからこそ物理的に割れることが無い。魂を物質的に割ることが出来ないように。
 そうよ。おかしい。そういえば、おかしいじゃない。
 あたし、このエメラルドを普通に使ってきた。いや、普通以上に。選りすぐりのエリートクラスに入れるぐらいに、自由自在に操ってきた。
 昔から一体感なんてこれっぽっちも無かったけれど、術を使う時は石と同調できたし、真命石ってこんなものなんだ、ってずっとずっと思ってきた。
 今も割れる前と何ら変わらない。石はあたしの想いに反応し、同調し、力を示さんとしている。
 皆の表情がひきつっている。割れた石しか持たないあたしに対して緊張している。
 でも分かる。あたしだって逆の立場だったら、きっと気味が悪いと思ってさらに警戒したと思う。
 偽石使いだったら、そもそも術なんてまともに使えない。たいてい本当の真命石を隠し持って術を行使し、本物のように見せかけるだけ。
 でも、あたしは違う。
 あたしは、使ってきた。そう、ずっと使ってきたのだ。
 トンカチで割れてしまうような自然石を、まるで真命石のように。
 そんなの、普通じゃない。異常もいいトコだ。
 自分で自分がわからない。あたし、なんでこの石を使うことが出来るの?
 皆の呼吸音だけが聞こえる程の沈黙が訪れる。静電気の火花が散っているかのように緊張感が満ちていて、空気に触れる肌が痛い。そんな中、自分への疑問が弾けそうなほど膨らんでる。
 指先に挟まれたエメラルドの、静かな緑の輝きがかすかに揺れて滲んでいる。いや、あたしの目が潤んでいるんだ。
 膨らみすぎた風船が当然の結果として破裂するように、あたしももう限界だった。
 その時、突如頭の上から赤く光る球が幾つも落ちてきて、派手な音と光を撒き散らし爆発した。緊張という火薬に火がついて、一気に場が騒然となる。

『アルーシャ、今よ、こっちへ!』
 
 喧騒の中、頭に直接メッセージが浮かんだ。イメージが指し示す方向を見ると、親友二人が手招きしている。
 リズベスとコゼットが必死な顔で頷き、教室の引き戸を開け放った。あたしは反射的に走り出す。
 迷惑がかかっちゃう。これじゃ二人も共犯者扱いになってしまう。
 本当ならちゃんと法廷に出て、意図的に偽石などするつもりなどなかったと堂々と訴えればいいと思う。だってあたし自身ずっとこのエメラルドが真命石だって思ってたし、現に石もあたしの意思に応えてくれてたんだから。少なくとも術も何も使えない偽石使いとは違う。
 でも、そんな理屈じゃ不安は止まらなかった。
 それに、なにより。
 嬉しかった。本当に嬉しかった。
 誰もがあたしを蔑み、嘲り、敵意を持って見ていたその中で、2人だけが泣いてくれた。怒ってくれた。味方でいてくれた。
 甘えるのは間違いだって分かってる。でも、指し伸ばされた手を振り払うなんて、今のあたしには出来なかった。
 光と音が飛び散る中、あたしは一心不乱に出口にむかって突進する。
「アル、こっちこっち!」
 三人揃って教室を飛び出し全速力で走った。


【2へ続く】
 


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