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「オリジナル小説」
ななしのアルーシャ

ななしのアルーシャ 09. エメラルド

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ななしのアルーシャ_表紙

 カーテン越しの陽の光で目が覚めた。
 うん。覚悟が決まったせいか、それともリズベズとコゼットといろいろと話せたせいか、昨夜は夢も見ずにぐっすり眠れたよ。
 用意されていたまっさらなシャツとズボンを身に着けて、汲んであった桶の水を使って顔を洗う。冷たい清水の刺激で頭がクリアになった。
 今日からが始まり。
 あたしの真命石を探さないといけない。
 とはいうものの、具体的にどうすればいいのかはまだよく分からないというのが正直なところだ。
 たしか午前中にヴィリー先輩が迎えに来ると言っていたから、失石者がどのように石を探すのか、確認しておこうと思う。
 アカデミーの授業では真命石が割れてしまう可能性や失石者について簡単な説明はあったけれど、真命石の具体的な探し方なんて教えてはくれなかった。
 当然だけどね。石を失うなんて想定外のことであって、普通は起こらないから。
 いつでも退室できるように準備を済ませて、先輩を待つ。
 なんとなく、カーテンを開けて窓の外を眺めた。
 ここから見ても堅牢な城壁に囲まれていて、戦うための要塞なんだなぁ、って実感する。

 王宮兼法王庁でもある城は、初代シルジア王が建設してから何度も崩壊と再建、そして増築を繰り返してきたって伝えられている。
 3000年の歴史の中で数えるのが億劫になるほど亜人との戦争があったから。
 特に天空人、冥界人との戦はいつの時代も激烈で、城が落ちたことも一度や二度じゃない。憧れの女王12世陛下の時も、天空人によってあわや落城まで追いつめられた、と伝記に残されている。
 でも、たとえ何度落とされても歴代のシルジア王は必ず奪い返し、この地に王城を保ってきた。
 聖地。
 王城が建っているこの場所は「大いなる父」が初めて天より降臨された地だから。
 ああ、今、聖なる地にいるんだなぁ、って今更ながら感動してるあたしがいる。
 なんだかいろいろなことが起こりすぎて、考えてる暇なんてなかったんだよね。
 ゆっくり深呼吸を繰り返していると、ノックの音が聞こえた。
 さすがヴィリー先輩。ピッタリ10分前行動だよ。
「どうぞ」
 返事をすると静かに扉が開き、親衛隊士の制服をまとったヴィリー先輩が、あいさつとともに入ってきた。
 なんだかにじみ出そうな笑みを無理やり押し殺しているような顔をしている。
 先輩がアカデミーに在籍していた頃、リズベスのおかげで何度か直接お話できる機会があった。そのときには常に冷静沈着で質実剛健って感じで、かっこいいと思いつつも気軽に声をかけられるような存在じゃなかった。
 当時を考えたら、こんな表情が見ることができるなんて嬉しいけれど、どうにも不信感のほうが先にたつよ。
 先輩といい、シルジア16世陛下といい、思ったよりもずーっとお茶目さんらしいからね。口に出しては言えないけどさ。
「どうだ。昨日はゆっくりできたか?」
 あたしはヴィリー先輩の心遣いをありがたく思いつつ、少しだけ警戒しながらお礼を言った。
「はい。素敵な差し入れ、ありがとうございました。……あの、二人とも大丈夫って言ってましたけど、本当にお咎めはないですよね?」
「ああ。校内で術戦したことに関しては校則によって罰があるだろうが、もともと成績優秀で生活態度も問題がなかった二人だ。お前が心配するような処分を受けることはない」
 その言葉にホッとした。
 リズベスもコゼットも平気な顔をしていた。でも、あたしの事情に巻き込んでしまったことは事実だもの。だからせめて、彼女たちの人生についてしまった傷が少しでも浅くなるように、密命の報酬として王へ願ってみようと思っていた。
 あたしの現在の立場自体が褒美のような気もするから、願って通るかは分からない。
 でも、なにもないあたしにとっては唯一の交渉材料。できるできないではなく、やってみるしかないと決意していたのだけど。
 先輩は表情を改め、静かに言った。
「……アルーシャ。今は自分のことだけを考えろ。大抵のことは俺がフォローできる。リズベスやコゼットのことも任せておけ」
 本当にありがたいと思う。ヴィリー先輩が請け負ってくれるならこれほど心強いことはないよ。
 だから、あたしは素直に気持ちを切り替えて、本題に入ることにした。
「はい、そうですよね。では先輩、さっそくなんですけれど……」
 真命石探しの具体的な方法について……じゃなくって、シルジア王の後継者探しについて尋ねる。うん、大丈夫です。優先順位はしっかりはっきり。忘れてなんていないですよ?
 ヴィリー先輩は、またも表情を微妙に崩しつつ頷いた。
 う〜ん。この顔をみるとどうしても警戒心が湧き上がるなぁ。
 アレキサンドライトは当てる光によって劇的に色が変わる特徴を持った宝石だけど、やっぱり真命石は持ち主を表すんだよねぇ。
 このちょっと軽い含み笑いはなんなのよ。王宮の城壁も真っ青な重厚堅固な先輩は一体どこへ?
「その件については、最適の人物がいる。もともと今日はそいつと顔合わせすることが目的だった。もう出発はできるか?」
「はい、いつでも大丈夫です。……でも、その、その前に、ですね」
「わかっている。待たせたな」
 先輩は腰の小さな携帯ポーチから綺麗な木箱を取り出して、あたしへ恭しいと言ってもいいくらい丁寧に手渡してくれた。
 息が止まる。つばを飲み込む。
 ゆっくりと木箱を開けて、なかにあるものを大切に包んでいるシルクの布を震える指でめくっていく。
 深い緑の輝きがそこにあった。
 エメラルド。
 以前の大きさに比べれば半分以下だけれど、すでに綺麗にカットされ新しい金のペンダントトップにセッティングされている。
 割れた真命石は普通の宝石と同じで、研磨もできるのだろう。その事実が胸を刺したけれど、手元に戻ってきたことがなによりも嬉しかった。
 たとえ本当の真命石ではないとしても、16年もの間共にあった「あたしの石」だ。心を満たす安心感は例えようがないよ。
「……身につけてもいいですか?」
「当然だ」
 なんの躊躇も警戒もない先輩の一言に、あたしは本気で涙が出そうになった。
 チェーンをとって首に回すのだけれど、うまく環を留められない。
「俺が留めてやろうか」
「いえ! ……いいえ、自分で。自分でやりますから」
 先輩は、あたしの非礼を小さく笑って受け入れてくれた。
 あたしは普段の5倍の時間をかけて、なんとかペンダントを身につける。
 やっと。本当にやっと、心が落ち着いてきた。
 同時に思う。これが本物の真命石だったら、その充足感はどんな感じなのだろう、と。
「先輩、お待たせしました」
「ああ。では行こうか」
 あたしは二晩お世話になった部屋を後にした。
 
 親衛隊士である先輩についていけば、王城内はほぼフリーパスだ。
 あたしの存在を知らされていない人たちも一瞬訝しげに視線を向けるだけで、特に問題なく内郭を出て厩舎にたどり着いた。
 先輩に促され、小さめの箱馬車に乗り込む。戦時用の馬車らしく、外見がシンプルだけど頑丈にできていて、中は空間が広くとられていた。
 長距離も快適に移動できるように、シンプルながら座り心地のいいクッションがついている座席に腰を下ろすと、先輩は御者にゴーサインを出した。
 門を抜け、長く細い坂道を降りていく。城からは見通しがいいだろう殺風景な道のりを、馬車の窓からぼんやりと眺めた。
 城下町に入ると途端に雰囲気が変わる。
 町中はどちらを向いても路上店があったり、着飾った人々が歩いていて、とても賑やかだ。建築物もところどころに宣伝用の看板が下げられているし、壁に華やかなレリーフが刻んであって、さすが王都って感じ。華やかで見る分には楽しい。
 だけど三階建て以上の建物が多くて視界が塞がれる上に、複雑でわかりにくい蜘蛛の巣のような道路網になっている。何度も道を曲がらなくてはならないので、馬車も人が走っている程度の速度しか出せない。
 いつ来ても、王都シルジアは市街地も含めた巨大な要塞なんだな、と実感した。
 ここ数十年は平和が続いているけれど、16世陛下がご即位されたばかりの頃はまだまだ大きな戦があったって教わったことを思い出す。
 それはさておき。
 町の乗合より振動が少ないこの馬車の乗り心地にちょっと感動しながら、あたしは先輩に尋ねた。
「今更ですけど、どこに行くんですか?」
「シルジア教会の『魂結びの集い』だ」
 簡潔明瞭な答えに、納得した。
 失石者の更生施設。それはつまり、次期シルジア王の候補者がもっとも集中している場所だってことだもの。
 シルジア教会が運営する更生所は2つある。犯罪を犯した者が罪滅ぼしのために社会貢献活動に勤しむ「贖罪の集い」と、失石者の社会復帰を促す「魂結びの集い」だ。
 あたしがいくら特例で行動の自由があるとはいっても、半分失石者である以上一度は顔を出すべき場所だし、密命のことを考えれば頻繁に出向くことになると思う。
 ヴィリー先輩がさっき言ってた「最適の人物」も、失石者関係の人である可能性が高いよね。
 本当の真命石を探すためにも「魂結びの集い」とは、良い関係を作らないと!
 窓の外を流れる楽しげなのに物騒な町並みを眺めながら、あたしはそっと胸元のエメラルドを握りしめていた。


【続く】


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